健康コラム

高齢者の体温調節機能が低下する理由と対策方法

「かなり暑いのに冷房をつけない」「すごく寒いのに薄着で出かける」こんな高齢者の行動を見かけると心配になりますよね。この行動の背景には、加齢による体温調節機能の低下や温度を感じる力の弱まりがあります。

しかし、極端な気温差が体調不良につながるのは変わりません。高齢者自身で体温調節が難しい場合は周りのサポートが必要です。

そこで今回は、高齢者の体温調節機能が低下する理由と危険性、対策方法をご紹介します。ご家族や周囲の方の健康管理に活かしましょう。

【目次】
1.高齢者の体温調節機能が低下する理由
皮膚の温度センサーが弱い
発汗量や血流量の増加が遅い
体内の水分量が少ない
認知症により自律神経に影響が出た可能性も
2.加齢により体温調節機能が衰えると何が危ないの?
3.高齢者の体温調節能力低下への対策方法
4.高齢者の健康管理のために周りの人ができること
5.まとめ

1.高齢者の体温調節機能が低下する理由

高齢になると暑さ・寒さが感じにくくなり、体温調節機能も低下するといわれています。まずはその理由からみてみましょう。

  • 皮膚の温度センサーの感度が弱い

    人間は皮膚の温度センサーで気温を読み取って脳に伝え、血液や発汗の量を変えることで体温を調節しています。エアコンや衣類の着脱といった対処行動も脳からの指令です。

    しかし、加齢によってこの皮膚の温度センサーの感度が弱まると、寒さ・暑さが脳に正確に伝わらず、体温調節をするための身体機能や行動へつながらなくなります。猛暑の日に「そんなに暑くない」と感じても、実際は熱中症になりかねない状態の可能性もあるので注意しましょう。

  • 発汗量や血流量の増加が遅い

    高齢者の体温調節機能の低下は汗や血流の量も関係しています。通常は体に熱がたまると、発汗や皮膚の血流量を増やして熱を放出しますが、歳を重ねると汗腺が小さくなり、血液量も減少します。

    発汗や血流を増やすスピードの遅れによって放熱作用が弱まり、体温が下がりにくくなっているのです。

  • 体内の水分量が少ない

    汗や血液に使われる水分の少なさも体温調整を妨げている要因の一つです。高齢になると喉の渇きを感じる機能や保水力が低下するため水分不足になりやすく、成人の体内水分量は体重の約60%なのに比べ、高齢者は約50%といわれています。

    体重70kgの人が体温を1℃下げるには100mlもの発汗が必要と聞けば、水分の重要さがよく分かります。

  • 認知症により自律神経に影響が出た可能性も

    認知症が発汗や血液量を調整する自律神経に影響して体温調整を難しくするケースもあります。例えば、レビー小体型認知症(※1)では多汗や寝汗、皮膚の血管拡張などの症状がみられますが、周辺温度と関係のない汗や血流の増加は体温を下げ、低体温の原因になります。
    (※1)レビー小体型認知症…動作が遅い・転びやすいなどのパーキンソン症状や幻視がみられる進行性の認知症

    またアルツハイマー型認知症(※2)では、日付や周りの様子の認識が難しくなり、季節に合った服装や寝具の準備ができないことも珍しくありません。認知症の不安を紛らわせるために必要以上に着こんでしまう方もいます。
    (※2)アルツハイマー型認知症…脳神経の変性や委縮により進行する認知症。認知症の中で最も多く、もの忘れなどの症状がみられる

2.加齢により体温調節機能が衰えると何が危ないの?

暑さ・寒さの感じにくさや汗の少なさは、「暮らしやすそう」と感じる方もいるかもしれません。しかし、体温調節機能の衰えはときに命にも関わる危険なものです。

暑い時期に体内の熱を逃がせないと熱中症に、寒い時期に防寒せずに過ごしていると低体温症や感染症の悪化を招きます。

総務省の発表によると、2022年5~9月の全国における熱中症による救急搬送人員の累計は71,029人。中でも高齢者(65歳以上)の割合が最も多く38,725人で全体の54.5%でした。

また低温死亡は熱中症に比べて認知度が低いですが、2008~2017年の10年間で11,002人が亡くなっています。家庭での死亡件数が約3割を占めていて、高齢者の死亡率が上昇している状況です。※

体温調節機能の低下は感染症などの悪化リスクも高めます。肺炎やインフルエンザのように、本来なら高熱が出るような病気でも、熱が上がらずに対応が遅れ、気づいたときには重症化していたという高齢者の事例がよく報告されます。

※出典:藤部 文昭ほか、日本の低温死亡率の地域性と変動および気温との関係、公益社団法人 日本気象学会、天気 66 (8), 513-527, 2019

3.高齢者の体温調節能力低下への対策方法

普段から運動習慣があり体力を保てている高齢者は、体温調節機能の低下スピードが緩やかだというデータがあります。以下をポイントに体力つくりを心がけましょう。

  • 1日1回15分以上行う
  • 汗をかく程度の運動(早歩きウォーキングなど)
  • 無理のない運動から始める
  • 運動の前後は必ずコップ1杯の水分補給をする

軽く汗をかく程度の運動を毎日定期的にしましょう。運動時は汗や血流が増えるので前後の水分補給も必須です。普段あまり運動をしない人やケガや持病がある人は、かかりつけ医に相談して無理のない運動から始めます。

また、運動直後30分以内に糖質とたんぱく質を含む食品を摂取すると、血流量アップが期待できて、熱を体の外に逃がす力の改善が見込めます。糖質とたんぱく質のバランスが良い牛乳1~2杯を補給するといいでしょう。チーズやヨーグルトと糖分を一緒に摂るのもおすすめです。

4.高齢者の健康管理のために周りの人ができること

体温調節能力の低下は自覚しにくく、高齢者本人が気づいて対策をするのは難しい場合も多いものです。周りの人が生活の様子や体調をみてサポートすることが大切です。

以下のチェック項目を参考にしながら体調管理に努めましょう。

<高齢者のチェックポイント>

  • 食欲はあるか
  • 熱はないか
  • 顔色はいいか
  • 体重や血圧、心拍数に変化はないか
  • こまめに水分補給できているか
    高齢者の一日の水分量目安:飲み物から約1~1.5L(コップ7杯)+食事から約1L
  • 室温が適切に保たれているか
    室温の目安:冬15~28℃、夏25~28℃
    ※エアコンの設定温度ではなく室温計で確認すること
  • 部屋の風通しや日当たりはいいか
  • 気温に合った服装をしているか

体温調節機能が低下していると、具合が悪くても熱があまり出ない場合があるので食欲や顔色、血圧などを総合的に見て判断することが大切です。水分補給は「就寝前後、3回の食事、入浴の前後に必ず1杯飲む」とタイミングを決めておくと忘れません。

部屋には温度計を設置して、暑さ寒さを客観的に判断できる環境を整えておきましょう。家族がこまめに様子をみられないときにも、本人が体温調節をする判断基準にできます。

分かりやすいところに体温計を常備して高齢者に体温測定の習慣をつけてもらうと、さらに安心です。

5.まとめ

高齢になると体温調節機能が低下しやすく、暑さや寒さも感じにくくなります。加齢による身体機能の衰えで発汗量や血流量が思うように増やせない、体内の水分量が少ないことなどが要因です。

体温調節がうまく働かないと、熱中症や低体温症のリスクが高まり、発熱せずに病気の発見が遅れる場合もあるため注意が必要です。

体温調節機能の低下は高齢者本人が気づきにくいケースも多いので、周りの人も健康観察や居住環境の確認をこまめに行って健康管理をお手伝いしましょう。

【参考サイト】

https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/envman/3-2.pdf

https://www.taisho-direct.jp/simages/m/contents/column/season/healthcare03/

https://www.mcsg.co.jp/kentatsu/dementia/5664

https://ogw-media.com/smile/cat_care/1826

https://vintage-villa.net/blog/info/seniorcitizens-bodytemperature-adjustment.php

https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r4/heatstroke_geppou_202205-09.pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tenki/66/8/66_513/_pdf

https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/hatsunetsu.html

https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/envman/3-2.pdf

https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/attachment/40375.pdf

https://weathernews.jp/s/topics/201807/230185/

https://www.ikyo.jp/commu/question/764

https://www.nhk.or.jp/shutoken/ohayo/20210624c.html

https://memory-clinic.jp/%E8%87%AA%E5%BE%8B%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%97%87%E7%8A%B6

https://nestle.jp/nutrition/product/isocal/knowledge/heatstroke/004/#:~:text=

https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/koureisha-sumai/jukyonainoondokanri.html

https://www.imairumo.com/anpi/article/20211214a.html

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