妊娠中の高血圧～赤ちゃんへの影響と対処法・治療法とは～

【目次】

１．妊娠中の高血圧の診断基準と種類

妊娠中の高血圧の診断基準

妊娠高血圧症候群の種類

２．妊娠中の高血圧 赤ちゃんや母体への影響

胎児発育不全

胎児機能不全

常位胎盤早期剥離

HELLP症候群

子癇（けいれん発作）

脳卒中

３．妊娠中にできる高血圧の対処法

まずは医師の指示を仰ぐ

医師の指導のもと食事を改善する

体重管理を徹底する

たっぷり休息をとる

４．妊娠高血圧症候群の治療方法

５．まとめ

まずは、妊娠中の高血圧の診断基準について、みていきましょう。

• 妊娠中の高血圧の診断基準

  妊娠中の場合、収縮期血圧（上の血圧）が140mmHg以上または拡張期血圧（下の血圧）が90mmHg以上になると、「高血圧（妊娠高血圧症候群）」と診断されます。中でも、収縮期血圧が160mmHg以上、または拡張期血圧110mmHg以上の場合は重症とされます。

• 妊娠高血圧症候群の種類

  妊娠高血圧症候群は高血圧になったタイミングや同時に見られる他の症状などによっていくつかの種類に分類されます。

• 妊娠高血圧

  妊娠20週以降に初めて高血圧になり、分娩後12週までの間に正常化する場合は妊娠高血圧だと診断されます。妊娠高血圧では、高血圧以外の症状や異常を示しません。

• 高血圧合併妊娠

  妊娠前から、もしくは妊娠20週までに高血圧が認められる場合は、妊娠高血圧ではなく高血圧合併妊娠にあたります。こちらも最後まで高血圧以外の症状を示しません。

• 妊娠高血圧腎症

  妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、たんぱく尿が認められ、分娩12週までに正常に回復するものは妊娠高血圧腎症に分類されます。また、たんぱく尿がみられない場合でも、肝臓や腎臓の機能異常、血小板の減少、頭痛、赤ちゃんの発育不全症状などが認められる場合も、妊娠高血圧腎症の診断がつきます。

• 加重型妊娠高血圧腎症

  妊娠前あるいは妊娠20週までに高血圧があり、妊娠20週以降に妊娠高血圧腎症でみられるような症状が出る場合、または妊娠前からたんぱく尿の症状があり妊娠20週以降に高血圧になってしまった場合なども加重型妊娠高血圧腎症となります。

妊娠中の高血圧は、母体はもちろん、赤ちゃんの成長や健康にも影響を与えます。命に関わる症状につながることも珍しくないので注意が必要です。高血圧が母子に与える影響をみてみましょう。

• 胎児発育不全

  胎児発育不全は赤ちゃんの成長が悪く、妊娠週数に相当した発育状態より遅い状態のことです。高血圧の影響で子宮や胎盤の血流の流れが悪くなり、赤ちゃんに十分な酸素や栄養がいきわたらないことが原因で起こります。

• 胎児機能不全

  胎児機能不全は高血圧による血流の悪化で酸素不足になり、赤ちゃんの呼吸器や循環器などが上手く機能しなくなる症状です。赤ちゃんの心拍異常なども起こりやすくなるため、最悪のケースでは子宮内で亡くなってしまうこともあります。

• 常位胎盤早期剥離

  常位胎盤早期剥離は胎盤が出産よりも前に剥がれてしまう症状です。妊娠高血圧症候群の人の発症リスクは高いことが報告されています。

  症状には腹痛、性器出血、腹部緊満感、胎動の変化（胎動減少・消失など）がみられ、赤ちゃんの死亡につながるケースも多い病気です。母体も子宮摘出や出血性ショックで命を失うリスクが伴います。

• HELLP症候群

  HELLP（ヘルプ）症候群は妊娠中や産褥期に、赤血球の破壊（溶血）、血小板の減少、肝酵素上昇などにより多臓器不全をおこす、母子ともに危険な病気です。妊娠高血圧症候群の合併症として知られており、重症妊娠高血圧腎症では10～20％の患者に発症するといわれています。

  HELLP症候群は早い段階で重体化する場合も多く、唯一の治療法として緊急帝王切開で出産を早める措置を取るケースも珍しくありません。

• 子癇（けいれん発作）

  子癇は妊娠20週以降の母体に初めて起きたけいれん発作で、てんかんや脳炎、脳腫瘍、脳血管障害、薬物中毒を原因としないものを指します。全身のけいれんと意識消失が見られ、発作が収まらない場合は脳出血の可能性もある、母子ともに命に関わる病気です。初産婦や妊娠高血圧症候群の人に多いといわれています。

• 脳卒中

  妊娠中の高血圧は全身の血流を悪くさせるため、脳卒中（脳出血、クモ膜下出血、脳梗塞など）のリスクが高まります。脳卒中の発症リスクは妊娠中に下がるものの、分娩時に9～27倍、産褥期に3～5.5倍にまで上昇するとの報告もあり、母子ともにきわめて大きなリスクとなります。

妊娠中に高血圧が分かった場合、どのように対処すべきなのでしょうか。

• まずは医師の指示を仰ぐ

  最も大切なことは自己判断で対処せずに、担当医に相談することです。妊娠中は通常の高血圧と同じ治療ができないケースも多く、ネットでみた一般的な改善法などを行うとかえって危険な状況になる可能性もあります。

  妊娠高血圧症候群は妊婦全体の3～7%が発症するといわれる症状ですが、いまだに明確な原因が解明されていません。状況や体調に応じた専門的な判断が必要なのでよく注意しましょう。

• 医師の指導のもと食事を改善する

  一般的な高血圧の食事療法は、妊娠高血圧症候群には悪影響がでるケースがあります。食事療法は、必ず医師の指示を仰ぎ、専門医の指導を受けてから行いましょう。水分摂取制限や薬対応、サプリの服用なども同様です。

• 体重管理を徹底する

  妊娠中の高血圧の改善に体重管理は欠かせません。妊娠高血圧症候群の発症リスクはBMIに比例して上昇するといわれています。しかし、過度なカロリー制限は子宮内の低栄養を誘発することになるため望ましくありません。医師と相談しながら、肥満予防に努めましょう。

• たっぷり休息をとる

  高血圧の運動療法は有名ですが、妊娠高血圧には十分な休息が必要です。あまり活動的に動き続けると血圧が上がりやすくなるので注意しましょう。妊娠前からの運動を継続したい場合は、必ず主治医に相談した上で妊娠の状況に応じて行うことが大切です。

病院で妊娠高血圧症候群と診断されると、重症度や週数に応じて、以下のような治療がされます。

• 安静、食事療法
• 降圧薬の使用
• 鎮痙薬の投与（子癇の予防・治療のため）
• 妊娠の終了（分娩）
  ※高血圧のみの症状の場合には、家庭血圧の測定や管理を求められる場合もあります。

妊娠34週未満で妊娠継続が母体や胎児にとって危険な場合や、妊娠34週以降で重症の場合は、たとえ早産期であっても母子の安全を優先して、医師が分娩の判断をするケースは少なくありません。

妊娠高血圧症候群は母子ともに命のリスクがあるため、重症型や合併症がみられる場合は入院管理が基本となります。

妊娠中の高血圧（妊娠高血圧症候群）の診断基準は、収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上です。

妊娠高血圧症候群は高血圧の発症タイミングや症状の度合いによって、いくつかの種類に分かれています。特に多いのは高血圧だけの症状がみられる妊娠高血圧や高血圧合併妊娠ですが、母子の身体に機能障害が生じる妊娠高血圧腎症や、加重型妊娠高血圧腎症など重症度が高い高血圧もあります。

妊娠中の高血圧は赤ちゃんや母体への影響も大きく、胎児発育不全や胎児機能不全、常位胎盤早期剥離やHELLP症候群、けいれん発作（子癇）や脳出血・心不全・肺水腫などの原因になります。

妊娠高血圧症候群への対処は必ず医師に相談することが大切です。一般的な高血圧治療法は、妊娠中の身体に悪影響を与えることも多いため、自己判断は危険です。医師の指導を受けた上で食事改善や体重管理の徹底、十分な休息などの対策をとりましょう。

【参考サイト】

日本妊娠高血圧学会「妊娠高血圧症候群の治療指針2021」
https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001297/4/hypertensive_disorders_of_pregnancy.pdf

国立成育医療研究センター「妊娠高血圧症候群（PIH）」
https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/037.html

日本妊娠高血圧学会「補足 1:「妊娠高血圧症候群の病型分類（病気の種類）」」
http://www.jsshp.jp/patient/pdf/hosoku_01.pdf

太田綜合病院「妊娠高血圧症候群について」
https://www.ohta-hp.or.jp/n_etc/80med/dep/dep65/d65_01.htm